はじめて2 | 木のうろ

はじめて2



友達になりましょう。それで、あなたがまだ私を好きで会うのが辛いなら、
これきり会わないようにしようと彼女はいった。

八年一緒に過ごして、そんなに急に切り替えられるのか?君は俺がいなくなって寂しくないのか?と聞くと、寂しいし辛いと思うが慣れなければいけないと思うと言う。慣れられるのか?と聞くと。慣れられると言った。

彼女はもともと考えの途中経過を話すことはなく、本人もそれを語るのが難しいと言っていて、いつも結果しか言わなかった。その結果はいつも正論だった。自分は途中経過ばかりを冗長にしゃべって、結果はいつも誤りだった。

俺も十日間考えて、まず君と別れることなんてできない、君と結婚したい、ずと一緒にいたいと思っていると言った。
それならばなおさらつきあえないという返答だった。

彼女はつきあい始めから、わたしは結婚はしないし子供も生まないと言っていた。自分も結婚願望は薄かったからちょうどいいくらいに考えていた。
けれどとにかく彼女を失いたくなかった。結婚しようと言った言葉は、詭弁ではない。けれどこれを書いている今思い返して、すがりの言葉だったように思える。

彼女が慣れる、と言い切った以上、これは本当なんだと思った。
それでも受け入れられるわけもなくて、とりあえず考えさせてくれと茶を濁した。彼女の手を握ると彼女が体を固くした。世の中こんなに辛くて切なくてどうしようもない瞬間があるのかと思った。
頭を抱いたけれど、体は固くなるばかりでただ直立不動するだけで、
こういう事されても、もう良くも悪くも何ともないんだよと言った。

それから彼女を見送り部屋に戻った。
三連休の初日だった。
酒に逃げたけどまったく酔わないし、いろんな人に電話をした。
友達や先輩や両親に泣きついた。

その後彼女に電話をした。来週土曜日に会う約束だったけれど、
顔が見たくて声が聞きたかったから。明日会いたいというと、
駄目だよ、来週でしょ、と平らな声が帰ってくる。
でも会いたいんだけど、君ん家行くよ、というと駄目だよ、わたしが行くから、話の続きでしょ、と返答がくる。
昨日は君がきたから、今度は俺が行く、それがフェアでしょ、と変な理屈をこねて、彼女がうんわかった、と言って、翌日午後に彼女の部屋に行った。

とにかくなんとかしたかった。
最初のログで書いたような自分の非を謝って、もう元に戻ろうとは言わない、新しくつき合ってほしい、もう一度チャンスを欲しいと懇願した。
でもやはり無理という返答だった。
一度別れて、友達に戻って、そこからじゃないと無理だと。
でも、そうしたところで君がもう一度俺を受け入れるとは限らないだろう、と言うと、うん。と返事がきた。

異性として見られない、でも居心地がよく慣れも安心感もある俺は君にとって何なんだろうと聞くと、すごく仲の良い女友達だ、と言われた。
仲の良い友達でいたいと。

それで何だか得心してしまい、
少なくともまだ一緒にお茶したり、食事したり買い物したりはできるんだよね、というと、それは勿論、友達だから、前みたいに泊まったり時間全部を預けたり毎週会ったりはなくなるけどと返事がきた。

だから、他に好きな人ができたら気兼ねしないでその人とつきあって欲しいと言われた。君も同じで、他に誰かいるならはっきりそう伝えてくれ、その方が辛いけど分かりやすい、という応答をした。

誰かいるのかい、と聞くとううんいない。と言う。
つき合ったころから、他に好きな人ができたら互いに伝えてすっきり別れようという話はいつもしていた。どこまで信じていいか分からないけど、彼女の返答は多分本当だと思う。

友達としてよろしく、と言い合って、彼女が手を差し出してきて、部屋の合い鍵を返した。
その後テレビを見て、笑い会って、近所の店で夕食を食べ、コーヒーを飲んで部屋に戻った。

世の中生きていく中でこんなに辛いことがあるなんて思わなかった。
眠ろうとするとシーツが汗でびっしょりになって断続的に目が覚める。
朝起きると、彼女がいないという事実を認識して(同棲していたわけではないけど)立てない。でも仕事に行く。
部屋に戻った後で彼女に電話した、
これから友達としてよろしく。ただ気軽に聞いて欲しいけど、俺はもう一度君とつき合いたい、始めたいと思ってるし、そのためにもう一度異性として好きになってもらえるような人間になるよう努力する。それでいずれまたアプローチすると思う。それまで友達としてよろしく。ただ、その途中で友達という関係に甘えたり、友達関係以上のことを求めそうになったらはっきり言って欲しいと。彼女はうん分かったと答えた。

仕事に行くけど、頭と心がばらばらになっている。
今は仕事に行く前に市販の向精神薬と寝る前に睡眠導入材みたいなのを飲んでいる。セントジョンズワート?

インターネットで失恋にまつわるサイトや掲示板を読んでいる。
人の言葉は助けられる。同じ思いをした人間がいるんだなと思うと、助けられる。でも最終的には、友達と電話して泣きついて、電話を切った後残るのが自分一人なように、最終的には、自分一人で、解決しなければいけない。

辛い。